もう9年も前(2012年)のYouTube動画「Bon Iver at AIR Studios (4AD/Jagjaguwar Session)」は、いまでも何度も見返してしまうボン・イヴェールのスタジオセッション映像だ。この動画を見ていると、キース・ジャレットの「The Köln Concert」を思い出してしまう。
Bon Iver at AIR Studios
インディーレーベルの4ADとJagjaguwarによって実現したボン・イヴェール、ジャスティン・ヴァーノンとショーン・キャリーのスタジオセッションだ。全5曲のうち3曲は2011年に発表されたアルバム「Bon Iver, Bon Iver」から、あとの2曲はカバー曲とEPに収録されている曲から構成されている。
ジャスティン・ヴァーノンとショーン・キャリーがグランドピアノを演奏する姿、二人の力みのない演奏と音を通して語り合う姿を見ると、音楽はこうあるべきだと思わせる。9年も前の動画だけど、必ずこの動画に戻って、見返してしまう。
YouTubeでは、1000万回以上もの再生回数があり、世界中で見られている動画だ。動画のコメント欄には、泣き止まなかった赤ちゃんがこのパフォーマンスを聴いて泣き止んだ、おなかのなかにいる赤ちゃんにこの曲を聴かせていたら赤ちゃんはいつも落ち着いていたなどのコメントが寄せられている。なにかこの動画には、癒やしの効果があるのかも…
曲目
1. Hinnom, TX
2. Wash.
3. I Can’t Make You Love Me
4. Babys
5. Beth/Rest
Crazy beautiful
全5曲で構成されている24:44秒の動画「Bon Iver at AIR Studios」。1曲目の「Hinnom, TX」と4曲目の「Babys」は、音楽を使ってアート(芸術)を表現しているようなパフォーマンスだ。
とくにお気に入りなのは2曲目、3曲目それに5曲目だ。この動画以外にも素晴らしいMVや音源がある。
2曲目の「Wash.」この曲は、AIR Studiosの動画を全曲通して聴くのは、もちろんだけれど、「Wash.」を聴くとMVの映像を思い出す。ロケ地はオーストラリア・バイロンベイにあるビーチ(別の記事で紹介したエインズワース湖の近くだ)で撮影された映像で、けして快晴ではなく、いまにも雨が降りそうな天候のなか、少し波が高い海に1人の男性が砂浜から、ただ、海の中へ入っていく動画だ。人の足、波、海の中がフォーカスされた映像と、曲が相まって脳裏に焼きついてくる。一度見ると、ずっと印象に残るMVだ。
3曲目は、いろんなジャンルのアーティスト達(Adeleなども)がカバーしている90年代の名曲、ボニー・レイットの「I Can’t Make You Love Me」。この曲は、ジャスティン・ヴァーノンが1人で演奏する「I Can’t Make You Love Me/ Nick of Time」(Nick of Timeもボニー・レイットのカバー)Verも何回も見たけれど、AIR Studiosの動画は、ショーン・キャリーとジャスティン・ヴァーノンが交互に歌う映像だ。この曲は、シングルカットされた「Calgary」のB面にも収録されていた。海や山に行った時、自宅、車の移動中に、何回も聴いている。
そして最後の曲。5曲目の「Beth/Rest」である。「Bon Iver, Bon Iver」のアルバムのなかでも最後の曲で、心に染みてくる名曲だ。AIR Studiosのほかにも、この曲のアレンジされたVerもよく聴いている。アメリカの“NPR music World Cafe”で収録された「Beth/Rest」(piano)のライヴ音源(25:12秒あたり)だ。この曲をジャスティン・ヴァーノンが低い声、高い声を使いわけて歌っている。アルバムに収録されたものと、また別の表現として聴ける。
参照:www.npr.org
音楽の専門的なことではないけども、ボン・イヴェールの魅力は、アルバムに収まっている曲をそのまま、ただ再現するのではなく、1つ1つの曲に対してヴァリエーション、アレンジを豊富にもっているところだと感じる。それはまるでミュージシャン達が、制作した曲を自ら楽しんでるかのようでもある。
そこがボン・イヴェールの凄みであり、世界中で愛される理由のひとつかもしれない。それは冒頭にあげたキース・ジャレットの即興演奏「The Köln Concert」を思い出すことと関係しているのかもしれない。
キース・ジャレットの“The Köln Concert”
キース・ジャレットは、アメリカを代表するジャズ、クラシックのピアニストでジャズが好きな人であれば知らない人はいないレジェンドだ。「The Köln Concert」は、ドイツの音楽レーベルECM Recordsからリリースされていて、全曲を即興演奏*で収録されたピアノ・ソロアルバムだ。
*即興演奏・・・楽譜などはなく、その場で作曲・編曲をして創り上げながら演奏していくこと
「ケルン・コンサート」は、いま聴いてもまったく色あせないアルバムだけど、このアルバムができるまでには相当なドラマがあったようだ。1975年、ドイツのケルンにあるオペラ・ハウスで行われた公演で、キース・ジャレットは、ヨーロッパでのツアー中だった。ケルンの前に公演したスイスのチューリッヒからケルンまで5時間を車で移動し、十分な睡眠もとれず、持病の背中の病気にも苦しめられていた。
ケルンについてからも、オーダーしていたピアノとは違うものが準備されたり、調律もされていなかったという。そんな悪条件が重なったなかで生み出されたのが「ケルン・コンサート」の音だった。アルバムから聴こえてくるのは、ピアノの音、耳を澄ますとキース・ジャレットが発するうめきのような声も聴こえてくる。とてつもないテンションだったことを想像させる。それが世界中で350万枚以上売れた世界で最も売れたピアノ・ソロアルバムになった。
ボン・イヴェールとキース・ジャレット
ボン・イヴェールのAIR Studiosのスタジオセッション、そしてキース・ジャレットの「ザ・ケルン・コンサート」は専門的にはまったく別の音の世界なのかもしれないけれども、似通っている音をなぜか感じる。それはいったい何なんだろうか…?その時間、空間、アーティスト達の持つテンション…答えは見つけられていない… 言えるのは世界中でそれだけ見られ、聴かれている音楽という事実だ。
音楽で心穏やかに
最近また、新たな感染症(デルタ株)がアジア、欧州で拡大している。それからカナダ、北米で起きている熱波。すごい高い気温(47.9℃くらい)になっているようだ。日本でも油断できない。地球が異常をきたしていたり、これまで過ごしやすかった場所が一変しているなか、メンタルを穏やかに保つことはなかなか難しいかもしれない。
そんないま、この9年前のボン・イヴェールのセッションや、キース・ジャレットのアルバムを、聴いて少しでも心を穏やかにする時間をつくっておきたいと思う。良い音楽は人を落ち着かせる。
(ボン・イヴェールのスタジオセッションは、YouTubeで「Bon Iver at AIR Studios 」で検索できる。キース・ジャレットの「The Köln Concert」の動画は見当たらなかった。iTunes Musicやその他の音楽配信サービス、CDであれば聴ける)
BIG RED MACHINE アルバムリリース!!
2021年7月、ジャスティン・ヴァーノンとThe Nationalのアーロン・デスナーとのバンド、「BIG RED MACHINE」から曲が届いた!! アルバムタイトルは「How long do you think It’s gonna Last?」の正式リリースは2021年の8月頃の予定のようだ。先行してアナイス・ミッチェルとの楽曲、テイラー・スウィフトとの曲、アーロン・デスナーの曲、3曲が聴ける。YouTubeの「BIG RED MACHINE」の公式チャンネルから見られる。8月が楽しみだ。