ボン・イヴェール、自然とウィスコンシン

いまのミュージック・シーンに、「自然」と「音」との一体感が感じられる曲が、どのくらいあるだろう。ボン・イヴェールの音楽は自然とまぎれもなく調和している。

ボン・イヴェールの始まり

アメリカのウィスコンシン州オークレア出身のミュージシャン、ジャスティン・ヴァーノン。学生時代から音楽活動を始め、Mount Vernon、DeYarmond Editionというバンドを経て、2006年、ジャスティン・ヴァーノンのソロ・プロジェクトとしてボン・イヴェール (Bon Iver) は誕生する。(ボン・イヴェールの名は、フランス語で「よい冬」を意味する「Bon hiver」から名前の由来がきているようだ。)ソロ・プロジェクトとして始まり、現在はバンド形態をとり、活動している。

出典:www.unsplash.com

2007年デビュー・アルバムとなった「For Emma, Forever Ago」が世界的な大ブレイクを記録する。このアルバム作品は、当時、ジャスティン・ヴァーノンが、肺の病気を患っていたことや、前バンド(DeYarmond Edition)の解散、恋人との別れなど悲しい出来事の重なりがあった。そんななか、地元であるウィスコンシン州に戻って、父親の山小屋にこもり数カ月を過ごし、音楽制作に没頭した。その孤独や孤高のなかから完成した作品だと言われている。

「For Emma, Forever Ago」と聞いて思い出すのは、フランスのLa Blogothequeの「A Take Away Show」だ。映像にはBon Iverが登場し、アルバムの曲を数曲演奏する。その時に見たジャスティン・ヴァーノン、ショーン・キャリー (Sean Carey) らの美しいファルセットの歌声は衝撃だった。
(ネット検索から「A Take Away Show Bon Iver」と検索すると、YouTube上でLa Blogotheque公式映像が確認できる)

Sydney Opera Houseのライブ映像

2011年発表された、グラミー賞2部門を受賞したセカンド・アルバム「Bon Iver, Bon Iver」である。映像として見られるボン・イヴェールのパフォーマンスやMVは、どれも素晴らしくて、優越はつけられないけれど、オーストラリアのシドニーオペラハウスでの公演映像は圧巻だ。

出典:www.unsplash.com

オペラハウスの空間性、場の空気と演奏曲がどの曲もマッチしていて、映像で見ても至極のライブパフォーマンスだ。おそらくその場にいた人にとっては最高の時間だったろうと想像がつく。シドニーのライブに行けた人たちがうらやましい。
(「bon iver sydney opera house」で検索するとオペラハウス公式動画がYouTubeで見られる。)

コラボレーションと音楽プロジェクト

ジャスティン・ヴァーノンは、Bon Iverでの活動のほかに、さまざまなジャンルのアーティスト達とコラボレーション、音楽プロジェクトなど、多彩に活動している。なかでもヒップホップアーティストのカニエ・ウェストや、ジェームス・ブレイクとの共作など、ファースト・アルバムからまた別のレベル、フェーズへと音の幅を広げ、押しあげているように見える。

ほかにもThe Nationalのアーロン・デスナーとのバンド、BIG RED MACHINEだ。この音楽プロジェクトでは、同時多発的にいろんなイベント(Eauxclaires、PEOPLEなど)を仕掛けている。また最近では、Bon Iver名義でテイラー・スウィフトとの共作も発表されている。

出典:www.unsplash.com

#FORWISCONSIN コミュニケート活動

ボン・イヴェール=ジャスティン・ヴァーノンを知るうえで、ウィスコンシン州オークレアははずせない。どんな場所なのだろうか?

フランス語で「澄んだ水」を意味するオークレア(Eauxclaire)。人口およそ6万5千人の都市でオークレア川とチペワ川が合流する地域だ、ハーフムーン湖という湖があり、音楽シーンも野外フェス、ライブなど盛んのようだ。見る限り、自然豊かなシンプルな都市と言える。

ちょうど、2020年のアメリカ大統領選の最中、ジャスティン・ヴァーノンが行った#FORWISCONSINというコミュニケート活動。白いバンに乗って、バンダナで口元を覆い、ウィスコンシンを駆け巡った。人々に大統領選の投票にいくように呼びかけたのだ。(車には大きく「COMMUNICATE.」という文字が書かれていて、これがまた渋い!!!)

それは、一人ひとりのアクション (行動) は無駄にはならないといっている。政治キャンペーンや政治活動ではなく、一般の人たちを訪問し、ただただコミュニケート(話し合い)をする活動だ。アメリカで続く人々の分断や対立、人種問題などアメリカ、いや世界の行く末を危惧していることからの行動だろう。

ジャスティン・ヴァーノンはこんなことを言っている。


「私は未来に何が起こるのか考えています
 将来的にはどんな感じになるのか
 振り返ったときに

 自分たちは十分なことをしただろうか
 十分に」 -ジャスティン・ヴァーノン-

https://eauxclaires.comより引用

この#FORWISCONSINの活動に賛同したアーティスト達が、音楽を聴かせてくれている。アナイス・ミッチェル、ショーン・キャリー、フェイスト、アーケイド・ファイア、エイミー・マンなどほかにも多数参加している。久々に聞いたエイミー・マンの「Wise Up」、いまの時代と重なり・・心にグッときた。いまでもeauxclaires.comのHPから、またはYouTubeでも見られるはずだ。

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コロナ禍の中、アメリカで放送された#PlayAtHomeというアーティストが、自宅やスタジオで演奏する様子を紹介する動画があった。そこで披露されたサード・アルバム「22, A MILLION」に収録されている「22 (Over SooN)」という曲。おそらく歌詞や曲調がその時の情勢にあわせてまったく別の曲のように編曲されているように聞こえた。最高だった…

その頃、毎日の不安なニュース、コロナ感染症流行など日々の混乱のなか、家でじっとしているときに聞いていた。なんだか思わず涙が溢れそうになる、ただ・・・勇気もあわせてもらった。

2021年、新しいアルバムは届けられるのか!?

少し前、アーティスト達が自宅、スタジオで演奏する姿を見られるInstagram live(インスタライブ)に、ジャスティン・ヴァーノンのライブがあった。おそらくBIG RED MACHINEであろう曲(新曲?!)を抽象的な映像とともに、曲の断片・コラージュ (曲の一部) を聞かせてくれていた。断片だけを聴いても良い曲なのが、すぐに伝わってきた。期待が膨らむ…

出典:www.unsplash.com

2021年、アメリカ大統領選後も、コロナ問題、世界情勢の不安と、世間がますます混沌としてきてるように感じる。そんななか、彼らはわたしたちリスナーにどんな音を届けてくれるのか?BIG RED MACHINEでの新譜なのか、ボン・イヴェールの新譜なのか、いまから待ち遠しくて、楽しみでしかたがない。

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